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小学時代
ウチの学校で流行っていた、所謂都市伝説というやつだ。
通学路にある人通りの少ない四辻、通称影十字で夜の12時に、股の間から辻の向こうを覗くと影女が現れるという。
影女は見たやつをどっかに連れて行ってしまうそうだ。
なんだってそんなめんどくさい事をしようと思ったのかは、今でも分からない。多分卒業式を終えて、人寂しさにどこか感傷的になっていたんだろう。
家を抜け出して、影十字に立った。閉鎖された小さなビルと潰れたスナック、無人のあばらやと傾いた倉庫で四方を囲まれた昼でも薄暗い影十字は、深夜の闇に溶け込んで雰囲気満点だった。
正直ちびりそうだったのだが、ここまで来て何もせず帰るという選択肢はなかった。宇宙の闇はこんなもんじゃないぞと気持ちを奮い立たせて、勢いよく頭を下げた。
股の向こうには、闇しかなかった。
ばかばかしさに 拍子抜けし頭を上げた瞬間、じゃり、と音がした。
影十字は真っ暗だが、さすがに人が居ればわかる程度の月明かりはある。きのせいか、と思おうとした瞬間。じゃり、と、また聞こえた。
犬猫の立てる音じゃない。明らかに靴、人の靴が立てる音だ。でも、誰の姿もない。
ヤバイ。これは確実にヤバイ。もし人間だとしても隠れてにじり寄るような人間はまちがいなくヤバイ。人間だったら、て人間じゃなきゃなんなんだ。俺の思考もヤバイ。
じゃり。
その瞬間、脱兎のごとく逃げ出した。夜道を猛スピードで走り抜け家に駆け込み鍵をかけチェーンロックを確認し階段を駆け上がったあと布団にもぐりこんだ。
なんとなく、玄関の外に誰かが居るのがわかった。
ヴィーーー。ヴィーーー。
卒業祝いと称して買った携帯が、振動していた。
誰にも番号を教えていない携帯が。
「卒業・・・おめでとう・・・」
耳に飛び込んできたのは、地の底から伝わるような、かぼそい 女の声だった。
「市立二中だよね・・・」
・・・え?
「通学路・・・待ってるから・・・」
そういうと、通話は切れた。
履歴は残っていない。
「待ってるって・・・」
理解が追いつかない頭で必死に考える。
「俺、私立谷中に行くんだけど・・・」
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