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それだけが救いだと、遺伝子上の父は苦しげに呟いていた。
「みんな同じなら、卓也くんと一緒になってもいいじゃない!」
「さやか」
「誰も知らないのに! どうしてっ!」
「さやか!」
叫んで肩を震わせるさやかを、あらゆる理性の制止を振り切って、抱き締めずにはいられなかった。
馴染んだ温もりに、心の内が蕩けていく。
君が愛しいと、声なく囁く。
抱き締めた場所から、低い嗚咽がもれた。
DNA鑑定の結果を前に、聡明な彼女は、すぐに事態を理解した。
だが。
最後まで婚約解消することに、苦しんでいた。
誰も悪くなかった。
医学生だった時代、恵まれない人のためにと、無償で精子を提供したさやかの父親も。
子どもが欲しくて、その精子を利用した僕の両親も。
医者となりさやかの母親と出会って、結婚してさやかが生まれたことも。
何も悪くないのに――
どうしてそれが、悪いことになるのだろう。
僕らは何も知らずに出会って、一目で恋に落ちた。
抗いがたく、魂が惹かれる。
それは血のせいなのか、さやか自身を愛しているのか、僕には解らなかった。
ただ。
一緒には、なれない。
それだけは、理解出来た。
だから――二人で会うことを、これで最後にしようと決めた。
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