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明日、僕は一人でドイツに旅立つ。
もう二度と、日本には戻らない。
どこへ行くのかを、さやかには告げなかった。
日本にいれば、彼女を求めてしまう。
全てを知っていても、それでも彼女が欲しい。
愚かなことだ。
きっと。
何年経っても、僕はさやかを忘れない。
彼女もおそらく、そうなのだろう。
それでも、別れなくてはならない。
僕とさやかは、兄妹だから。
「大嫌い」
さやかが呟く。
愛しているの言葉の代わりに。
いつか。
太陽が終焉を迎える時に――
僕を作っていた物質と、さやかを形作っていた物質が、爆発に飲み込まれてしまったら。
その時にようやく、僕たちは一つになれる。
激しい熱と圧力の中で、物質同士を絡め合って、新しい物質へと変容する。
誰にとがめられることなく、僕はきっと君の物質に手を伸ばす。
その時まで――
君から離れなくてはならない。
僕と君は――
血を分けた者だから。
最後に彼女を腕に抱き締めて、僕は動けなかった。
長く静寂を保った後、さやかが静かに動いた。
花がほころぶように、自然と腕を離し、僕はさやかと再び距離を取った。
さやかは、ゆっくりと微笑んだ。
「さようなら、卓也――兄さん。大嫌い」
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