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涙の滲んだ顔を、見られたくなかったのかもしれない。
「知っているかい?」
左の薬指から金色の指輪を外しながら、僕は呟いた。
夜の公園の、星々を撒き散らしたような街の灯りが見える場所で、指輪は鈍く光ってみえた。
最後の瞬間になるまで、どうしてもこの指輪が外せなかった。
指から消えたら、彼女との絆も消えてしまいそうで、出来なかったのだ。
その未練が――
今でも彼女が愛しいことが、ただ、切なかった。
会えば苦しくなると解っていても、それでも彼女に逢いたかった。
ただ。
一目でも。
彼女の姿を目に映したかった。
「何を?」
涙で潤んだ声で、さやかは問い返した。
少し高めのかすれた声を聞きながら、僕は言葉を返した。
「金はね、地球の内側では、作り出すことが出来ないんだ」
ゆっくりと、彼女は顔を動かした。
眼から透明な涙がこぼれ落ちている。
美しい、と。
胸の奥で呟く。
「金?」
さやかが語尾を上げて、単語を呟く。
「そう。この指輪の原料になっている金属。ゴールドだね。元素記号ならAu。原子番号79の金属だよ」
ゆっくりと、さやかが瞬きをする。
その動きで新しい涙が、頬を流れ落ちた。
零れる涙に胸を刺されながら、僕は言葉を続けた。
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