117人が本棚に入れています
本棚に追加
にわかに飲み込めなくて、僕はただ、絶句していた。
彼は告白した後、しばらく沈黙していた。
誰も動かない。
何も音のない時間がしばらく流れた。
そして、彼はぽつり、ぽつりと話してくれた。
医学生時代、恵まれない人々のために、精子を提供したことがあると。
それが、どのように使われたのか、一切自分は知らされていない。
だが。
もしかしたら、という可能性が拭いきれない。
ずっと握りしめていた秘密を、手の間からこぼすように、彼は呟いていた。
どきんと、心臓が躍った。
両親は結婚後、長く子どもに恵まれなかった。
やっと授かった子だからと、僕をとても大切にしてくれていた。
兄弟はいない。
まさか。
という言葉が、喉の奥で引っかかった。
確実な方法は、DNA鑑定をうけることだ、と彼は言った。
二人だけの間でそれを確認出来れば、他の者を傷つけずにすむ。
すまないが、卓也君。これから一緒に、鑑定施設に来てくれないか、と。
取り越し苦労の可能性もある。
不躾なことだとは重々承知だ。だが、さやかのためにも確認をしておきたい。
――頼む。
不安を取り除くためにも、僕は彼の申し出を受けた。
最初のコメントを投稿しよう!