さようなら、いとしいひと

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「指輪だけでなくてね」  闇の中でもきらめいて見える、さやかの瞳を再び見つめて呟く。  この瞳に向けて、僕はなんど愛していると呟いただろう。  その記憶が、胸を打つ。 「人の体にも、かつて超新星爆発で作り上げられた物質が含まれているんだよ」  さやかが、ちょっと驚きの表情を作る。 「人の体にも?」 「そう。炭素が主成分だけれど、それ以外の亜鉛やリンなど微量な物質はね、宇宙の欠片を地球が取り込んだ時に生まれたものなんだ。それを――今でも人は、体内に閉じ込めている」  さやかが笑う。 「じゃあ、わたしも卓也君も、星の欠片でできているの?」 「僕たちだけじゃないよ。この地球の全てが――宇宙が生まれたての荒々しい中で、爆発して滅んだ星の末裔なんだ」  不意に、彼女の表情が歪んだ。 「なら――世界のみんな、同じものなのね」 「そうだね。同じだ。だから、物を食べると体内に取り込んで、ばらして再利用できる。僕とさやかも同じだ――」 「なら」  不意に、彼女は鋭く叫んだ。 「なら、いいじゃない!」    さやかと僕は、兄妹だった。  その事実を、僕たちはさやかに告げた。  結婚を、諦めるために。  二人に子どもが授かっていなかったこと。     
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