夢はそれぞれ違っていい。

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1987年夏 公園の川の近くの木目調のイスの周りで煙があがっていた。 周りは日差しが強く、蝉の鳴き声が四方八方から鳴き続けている。 寛太は七輪で魚を焼いている。 「これはな。さっき釣った魚だ」 「へぇー凄いね」 雪子はしゃがみこんで七輪の上の魚を眺めている。 「あっ。段々魚の色が変わってきたね。食べられそうか」 「まだまだ、中までしっかり焼かないと美味しくないから」 寛太は力強く団扇で七輪を扇いだ 「炭に火がついているからあと少しだ。雪子、もうちょっと待っててくれ」 「わかった。ところで寛太。昨日、学校で将来の夢について書いてくる課題 があったけどもう考えたの」 寛太は自信満々に答える。 「俺は決まっているぞ。大きくなったらエジソンみたいになりたい。少しでも 社会に役に立つものを発明する人間になるんだ」 「そうなんだ。私は将来の夢って聞かれて何を書けばいいのかわからない。どうしたら良いのかな。寛太はすぐに将来の夢が浮かび、羨ましい」 雪子は膝に肘をつき、大きな目を見開いて寛太の方を向いている。 「なんでさ、雪子にも何か夢ぐらいあるだろう」 「私にはないのよ。夢なんて」 「あるはずだ。よく考えてみろ、何かあるはずだ」 雪子は少し黙って考えていたが溜息をついた。 「やっぱりない。夢は浮かばない」
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