あたらしいまち

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「さぁて、行こうか」 古本屋は左手にトランクケース、右手に鮮血のグラスを持つと、軽快なステップを踏みながら、夜の大都市をふらついた。 長年この大都市にいた古本屋は、誰がここから出ていきたがっているのか知っていた。当然、彼らの家も知っている。 (出ておいで、大都市の檻から。さぁおいで、私の街へ) 古本屋が心の中で囁くと、あちこちの家から、人が出てきた。 老若男女はバラバラで、彼らの共通点といえば、この大都市に住んでいることと、家、もしくは大都市から出ていきたいと思っているということのみ。 彼らはそれぞれ手に何かを持っている。 ある者はぬいぐるみ、ある者は衣服、ある者は鏡を。 少なくともひとつは、大事なものを抱えて歩く。 誰もが、張り付いたような不自然な笑顔で。 古本屋は彼らを連れて、大都市を出た。 そして何時間も歩いた。 森の中の、拓けた場所に着いて、古本屋はようやく止まる。 すると彼らの、張り付いたような笑顔が解ける。 「ここは、どこなの?」 「足が痛いよ……」 「うぅ、寒いし、足痛いし、最悪!」 「一体、何がどうなってるんだ?」 彼らは困惑したり、足をさすったりしている。 「やぁ、皆さん。お疲れ様」 古本屋が言うと、視線は一気に彼に集まる。 「あんた、古本屋……?」 「お疲れ様って、どういう事?」 「そういや前に、古本屋が魔法使いだって聞いた事があるぞ」 誰かの一言で、彼らは更にざわついた。 「魔法使い、ですか……。まぁあながち間違ってはいないと思いますよ?」 古本屋がにっこり笑って言うと、怒声と恐怖が渦巻いた。 「俺達をどうする気だ!?」 「明日は大事な仕事があるの!」 「おうちに帰りたいよぅ……」 人々は古本屋に詰め寄る。
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