春一番

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「バイトなんて必要無いだろ?! それならもっと俺との時間を作ってくれ」 「えっ、だって親には高い授業料を 払って貰ってるんだもん。 せめて自分の遊ぶお金くらいは 自分で稼がなくちゃ」 本当のことを言うと、 私は家族に遠慮していた。 いつも面倒を見てくれた優しいミツくん。 彼がお義父さんになってくれたけれど、 何だかんだ言って私は他の男の娘なのだ。 一生懸命働いたお金を、 他人の血が半分流れた娘の為に使う。 それはきっと、 あまり気分の良いものでは無いだろうと。 8歳下の妹が生まれてから その考えは更に強くなり、 私は両親の前で演じることを覚えた。 明るくて、皆んなの人気者で、 気遣いも出来るという自慢の娘を。 その正体はいつもウジウジと悩み、 人から好かれることばかりを求め、 本当の自分が分からなくなっている 中身カラッポのダメ人間。 …そんな私が唯一、 心を許せたのが啓太くんだったのだ。 「あーっ、もう啓太くん?! 掃除してあげたの3日前だよ。 なんでまたこんなに散らかってるのッ」 「それはだな、夜中に泥棒が入ってさ、 そいつがグチャグチャにしてったんだよ」 「んじゃあ警察に電話しないと。 犯人を早く捕まえて貰わなくちゃ!」 「嘘に決まってんだろ、信じるなよ」 「そんなの嘘だと分かって言ってますう」 「うわ、今の顔ブサイク~」 「はあっ?!私、超カワイイもん!!」 「ははっ、自分で言ってりゃ世話無いし」
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