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天気は生憎の晴れ。
やってられないよ、なんて思いながら、周りを見渡す。
人の気配はなく、聞こえてくるのは鳥のさえずりだけ。
足音は最小限に、俺はそっと植物の蔓をかき分けて隠れ家へ入った。
取ってきた戦利品をしまって、何かあったらすぐに持ち出す用の荷物はいつも通りの場所へ置く。
ぱぱっと片付けが終われば、古びたソファにどっかと体を沈めて、隣に置いた棚からこれまた古びた紙の束のまとまった物を手に取る。
ボロボロに擦り切れて、もしかしたら背には文字があったのかもしれないが、今は消えかかった文字の一部しか読めない。
何度も読み返す前からボロボロだったこれは、どうやら本と呼ばれる物らしく、荒廃したこの世界ではとっても珍しいものらしい。
「青は澄み渡った空の色、陽の光を浴びた海の色。緑は草木の色、高い山の色。赤は夜の前にやってくる夕方の色、熱々の血の色。」
本の中の一節を諳んじる。
色、というものが昔あったらしく、しかもそれは種類がたくさんあったらしい。
他にも今はない物の名前や習慣が書かれていて、読んでいて一体どんな物があったのか、どんな生活をしていたのか、想像するだけでも楽しい。
飛行機って何だろう。
鉄の塊で、羽が2つついていて、中に人を乗せて運ぶ物らしい。
テレビって何だろう。
箱の形をしていて、中で人が喋るらしいけど、空中に投影される映像とは何が違うんだろうか。
印刷って何だろう。
この本を作るのも印刷ってのがあったらしいけど、どういう物なんだろうか。
隠れ家に置かれた物をぼんやりと眺める。
とりあえず持ってきて置いた物も多く、ほとんどは使い方が分からない。
残念なことにこの世界は、昔のことを教えてくれるいわばこの本のような物はなく、自分の勘とすごく稀に出会う人から伝え聞くしか方法はない。
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