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私は大事な荷物を詰め込んだ大きめのリュックを背負い、逸る気持ちを抑えきれず家を出発した。
祭りごとは派手な方が良いとはいえ、サプライズの重さが五キロにもなったのは大誤算。
歩くのも大変で、荷物に気を取られすぎて、危険がすぐ目の前まで来ていたことに気づかなかった。
子供の頃から大自然の中で駆け回って生活してきたから忘れがちだけど、自分は華奢な体の女の子。
人通りが少なく薄暗い静かな住宅地で、無防備な田舎娘を拉致するのはとても簡単だったと思う。
すれ違いざまに何かのスプレーを顔に吹きかけられ意識がもうろうとして、車に乗せられて、気が付けばこのベッドに横たわっていた。
まだ少し頭がフラフラする。
六畳くらいの広さだろうか。シングルベッドと立派な木製の椅子が一つ。
窓は無くてコンクリートの壁にフローリングの床。一軒家なのかマンションなのかはわからない。
扉は外から鍵がかけられているらしく開けられなかった。
殺風景な部屋だけど、汚くはない。
壁に掛けてある時計が正しいなら、そろそろ夜が明けてしまう。
準備に時間をかけたサプライズもこれで台無し。
友達と楽しむためには必要だったのに、とても残念。
カチャッと鍵を外す音。
扉が少し開いて、ぬうっと登場したのは細身で眼鏡の気弱そうな男。
ピシッとしたスーツ姿。二十代前半にも三十代後半にも見えて年齢不詳。
この人が私を連れ去った犯人だろうか。
「……目が覚めたようですね。気分はどうですか?」
小声で喋るから聞き取りづらい。
「いやらしいことをしなかったのは褒めてあげる」
冷静で堂々とした私の態度に、男は目を見開き「只者ではないですね」といった感じで驚いた様子だった。
只者ではないと思わせることには成功したけど。
「……物事には順番がありますので」と、いやらしいことをする順番もあるみたいな言い方をしてきたので鳥肌が立った。
大人しくベッドの上にいてください、と命令されたので刺激しないように静かにしていると、男は肩から下げていたトートバッグの中からビニールシートを取り出し広げて床に敷き始め。
それが気になったけど、今質問したら怒られそうだし黙って見ているしかなかった。
黙々と作業をすすめていた男が、今度はノコギリと包丁と金づちを取り出して、椅子の上に丁寧に並べた。
これは本格的にヤバイ人だぞと焦った。
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