【 変色 】

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 ドスッ!  突然、何かがぶつかってきて背中に熱いものを感じた。 「……ごめんなさい。やっぱり僕は、こういう人間なんです。手遅れなんです……」  男は、私の血で染まった包丁を手にしていた。  あぁ、隙だらけだったのは私の方か。  よく考えたらそうだよね。  覚悟ができてる人間に、のんきに背を向けてリュックいじってたらダメだよね。  ドザッ!  男は抱きしめるように私の上に倒れ掛かってきて、今度は左肩に包丁を刺してきた。  ドッ! ドッ!  続けて胸に二回。  子供の頃、近所の山には沢山虫がいて、カブトムシとかクワガタとかを皆でよく獲りに行った。  虫同士を戦わせる遊びが特に楽しかった。  カマキリとオニヤンマを戦わせようとしたとき、飛ぶしかないオニヤンマが小さな虫カゴの中だと不利に思えて、何かハンデを付けようって話になって。  カマキリの両腕のカマを千切ることにした。  同じ条件に見えた両者を同時に虫カゴに放り込むと、オニヤンマがカマキリの顔を凄い勢いでムシャムシャと食べ始めた。その食べっぷりに皆大笑いして盛り上がった。  獰猛に食う姿が、スイカを一瞬で食べる芸人みたいで面白くて、いろんな虫をオニヤンマの顔に近づけて食わせた。  そんなオニヤンマもクワガタのハサミには手も足も出ず即首を挟まれ絶命させられた。  カタツムリを捕まえた時は、塀に思いっきり投げてぶつけると、バンッと炸裂して飛び散る。それは全然面白くなかったけど、そういう意味のないこともよくやって遊んでいた。  「むやみに虫を殺すもんじゃないよ」と言っていたお爺ちゃんは、庭をうろつく野良猫を捕まえては用水路に投げ入れていた。  私は猫が可愛くて好きだから。猫を投げるのやめてとお願いしたけど、「あいつら作物やゴミ置き場を荒らす害獣だから好かん!」と、怒っていた。  最初は悲しくて泣いたけど、同じ動物でも迷惑な害獣は別と考えられるようになって気が楽になった。    そんなことを、こんなときに、ふと思い出してしまったのはどうしてかな。    何度も刺されて凄く痛いけど、私は頑張って必死に手を伸ばし、リュックの中のサプライズを、起動させた。 「あーあ、ここじゃないのになぁ、でも仕方ないか」  これで後は、三十秒くらい待てば。    花が咲いて、何もかも吹き飛ばしてくれる……
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