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だからあのとき私は、これまで誰にも話したことのなかった『予知夢』という出来事について、口にしてしまったのでしょう。
あれから私は医療関係の職業に就き、日々をそこそこ平穏に無難に過ごしていたわけなのですが、その日私は、顔なじみの一人のドクターと挨拶代わりの雑談をしていました。
しばらくは取るに足らない世間話をしていたのですが、ふと私はこのとき、自分が昔見ていた『予知夢』について話してしまったのです。
『予知夢』を見ていた当時は、そういう不可思議な自分の特異体質について、他人へ話すことを怖れていたわけですが、それも遠い過去となった今、別に言ってしまってもいいかな…と思ったからです。
それに、目の前にいるドクターは、けっこう面白い物の考え方をする人で、これまで私が人生で出会ってきた人々の中で、最も知識量が多そうだと思われる人物でした。
こういう人物に、長年私が抱えてきた謎について話したら、どのような答えが返ってくるのだろうかと、興味が湧いたわけです。
時の流れの効果とは不思議なもので、過去にはあれだけ深刻に受け止めていたこともあった『予知夢』という自分の過去の特異体質について、まるで人ごとのようにスラスラと話すことができていました。
ドクターは涼しげな顔をして、最後まで私の話を聞いてくれました。
それこそ診察しているときのように。
でもいつもの診察時と違うのは、ドクターの表情に、ちょっとした好奇心のようなものが浮かんでいるところでしょう。
それほど長い話にはなりませんでしたが、私から『予知夢』について聞き終わったドクターは、ゆったりとイスにかけながら、こう言いました。
「それはね、君、理由としては脳に何かがあるのかもしれないね」
「はあ…脳ですか」
さすが医師、こちらがまったく想像もしていなかった返答をしてくるものだ…などと、それまでは『予知夢』を見ることがあったなどと言い出した私の精神を疑われたらどうしようと、内心でハラハラしていた部分が払拭されて、ホッとしながらも私はマヌケな返事をしました。
ドクターはそのまま、診療時に患者へ病状説明をするときと同じ口調で、このような仮説を述べるのです。
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