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「お待たせ。ねぇ、正さん、マドレーヌ好き?」
「美玲……これ……」
部屋に入ってきた美玲を、僕は震える目で見上げた。
「あ、見てくれたのね」
美玲は嬉しそうに声を弾ませた。
そして、僕の隣に両膝を付け、紅茶とマドレーヌの載った皿を並べながら、歌うように軽やかにあらすじを説明していく。
とても美しい女性と、とても平凡な男のラブストーリー。
「この本ね、すっごいロマンティックで、私、昔からこの本が大好きなの。正さんもちょっと読んでくれたみたいだから気付いたと思うけど、主人公の名前が私と一緒なの。ね、すごい偶然でしょ? あ、正さん、遠慮しないでいっぱい食べてね? 作りすぎちゃってまだまだたくさんあるの」
勧められるまま、マドレーヌを口に運んだ。
カラカラに渇いた口内に、生地が纏わりつく。味なんかわかるわけがなかった。
「……うん、すごく美味しいよ」
「本当? 良かったぁ。あ 、それでね、正さん。そろそろ正さんの協力も必要になっちゃって、だからね、今日はこれを見てもらいたくて来てもらったんだぁ。例えば……あ、ほら、ここ見て」
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