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「じゃあ、お茶淹れてきますね」
美玲は微笑みをひとつ落とし、スリッパの軽やかな足音を奏で一階へ降りていく。
初めて招待された美玲の家。
通された美玲の部屋は、白と淡いピンクを基調にした美玲らしい部屋だった。
見渡しながらも、つい目線はベッドへと吸い寄せられてしまう。
美玲と付き合い始めて、三ヶ月が経っていた。
何度もデートを重ね、同じ時を過ごした。一緒にいればいるほど、僕はどんどん美玲を好きになっていった。
美玲は容姿だけでなく、純粋で優しくて、心までも美しかった。
僕には本当にもったいない女性だった。
僕たちのことを知った人は、皆が皆、信じられないと顔を歪ませた。
当然だった。一番信じられないと思っているのは、他の誰でもなく僕だ。
美玲と一緒にいられるだけで、本当に幸せだった。だけど、関係が進展して欲しい、心の中で密かにそうも思っていた。
美玲に家に招待されたのは、そんな時だった。
両親は旅行で今日は帰らない。わざわざそう告げてきたのは、美玲の方だ。
胸の高鳴りは最高潮に達していた。あまりにドキドキし過ぎて、痛いくらいだった。
落ち着かなくて、僕は意味なく、部屋をうろうろと歩き回る。
「いてっ」
ゴンッという音が部屋に響いた。脛は鈍いながらも強い痛みを訴えてくる。
足元を見ずに歩き回っていたせいで、テーブルの角に脛を思いっきりぶつけてしまった。
涙目で脛をさすっていると、そのテーブルの上、置いてある一冊の本が目に入った。
単行本サイズのそれには、淡い桜色のブックカバーがかけられている。
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