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テーブルの横に腰を下ろし、表紙をめくってみた。
タイトルは「ラブ・ストーリー」というシンプルなものだった。作者は女性で、聞いたことのない名前だ。
タイトルからして、きっとストレートな恋愛小説なのだろう。美玲らしい、そう思い、頬が緩む。
相当読み込まれているらしく、どのページも端が擦りきれていた。
1ページ目をめくった。おや、と思い、一度指を止めた。
さらにぱらぱらとめくっていき、20ページほどから出てくるようになったとても慣れ親しんだ名前に思考が止まった。
【佐藤正は、とても平凡な男だった。十人並みの容姿に、特にこれといって光るものもない、仕事も可もなく不可もなくといった、まさに平凡を絵に描いたような男だった。
だけど、とても優しい男だった。いつも美玲のことを一番に考えてくれていた。
美玲は正と過ごすうちに、少しずつ、だけど確実に、正のその人柄に惹かれていった】
朝の通勤途中、みんなが迷惑そうに足早に避けて歩く中、美玲がばら蒔いた書類を拾うのを手伝ってくれた正。
昼休み、美玲の作った弁当を、美味しそうに頬張る正。
美玲の愛の告白を、顔を夕焼けよりも真っ赤に染めて受け取った正……。
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