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会社最寄り駅まであと二駅というところで、大量に投入された乗客によって、僕は奥のドアまで押しやられた。
ぎゅうっとドアへ押し付けられ、景色を切り取る窓に、それらに混じり、うっすらと僕の顔が映っていた。
平凡、凡庸、十人並。
きっと僕ほどこれらの単語が似合う奴は、なかなかいないんじゃないかと思う。
特にこれが得意というものはなく、勉強も、運動も、いつも中の中、中の下あたりをいったりきたりしていた。
身長は173㎝。太ってもなく痩せてもない、中肉中背。
顔ももちろん、イケメンではない。だけど、決して不細工でもない。
なんていうか、特徴のない、一回では覚えてもらえないような、印象に残りにくい、そんな顔なのだ。
その上、名字は佐藤。名前は正だ。
日本で一番多い名字なんだから、名前くらいは、せめて、もう少し、印象に残りやすそうなものにしてくれれば良かったのに。
降車駅に着き、開くドアとは反対側まで押しやられていたせいで苦労したけれど、なんとかホームへと降り立つ。足早に改札へと向かうスーツの軍団に、足並みを揃え紛れ込む。
全員が全員、まるで訓練されたみたいな、同じ歩調だ。
そして、誰よりも一番きれいに紛れ込んでいるのは、僕だ。
きっと誰一人、僕なんか見ていない。僕の存在に気づいていない。
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