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そんなことを考えていたからか、知らず知らずのうちに、僕は立ち止まってしまっていたらしい。
それに気付いたのは、後ろから人にぶつかられたからだ。
「きゃっ……」
背中に軽く衝撃が走り、次いで、ばさばさと何かが落ちる音。
振り返ると、僕を中心にして、たくさんの紙が散らばっていた。
「あっ、すみません……!」
こんなところで立ち止まっていた僕のせいなのは明らかで、慌ててしゃがんだ。
僕のすぐあと、そのぶつかってしまった女性も同じようにしゃがむ。
栗色の髪が揺れ、ふわりと花みたいないい匂いがした。
視線を上げると、その女性と目が合った。
黒目がちの大きな瞳が、僕を映していた。僕の心臓は、途端に速く動き出す。
「こちらこそすみません。ありがとうございます」
僕に微笑みかけた彼女は、僕の会社で高嶺の花と呼ばれている女性だった。
秘書課所属の桜井美玲。
二年目だから、23か24歳だろう。
目鼻立ちの整った人形のように美しい顔、華奢で長い手足、透き通るような白い肌が目に眩しい。
名前まで美しい彼女は、拾い集めた書類を渡した僕に、頬をうっすらと赤く染め何度もお礼を言った。
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