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「佐藤さんっ」
昼休み、会社近くの公園のベンチでそわそわと待っていた僕に、桜井さんが手を振り小走りで近付いてくる。
僕もおずおずと顔の横に手を挙げ、ぎこちなく笑みを浮かべてみせる。
『先日はありがとうございました。よろしければ、明日のお昼ご飯、お礼にご馳走させてくれませんか?』
昨日、彼女から来た社内メールを見た時、大袈裟でなく、本当に心臓が口から飛び出してしまいそうなほど驚いた。
ただ書類を拾っただけで、お礼されるほどのことではなかったけれど、これを逃したら、こんなチャンス二度とないのはわかっていた。
僕は震える指先で、彼女に了承の返信をした。
「実はお弁当作ってきたんです。お口に合うかわかりませんが、良かったら……」
もちろん僕がご馳走するつもりで、何を食べたいと言われても大丈夫なようにしっかりお金をおろして来ていたのだけれど、彼女はなんと、僕のために手作り弁当を用意してくれていた。
二人の間に広げられた弁当は、彩り鮮やかで、とにかく美味しそうだった。
僕は女の子の手作りのお弁当を食べるのは、はじめてだった。
「んんっ」
ドキドキしながら卵焼きを口に入れた僕は、思わず声を上げた。
びっくりするほど、美味しかった。こんなにも卵焼きを美味しいと思ったのは、生まれてはじめてだった。
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