リフトに乗った君

10/15
前へ
/15ページ
次へ
 ぺこっと下げたヘルメットが可愛くて、私はうきうきしながらココアを2つ買った。  空いていた窓際の席で向かい、帽子とゴーグルと手袋を取って、私は席についた。  窓から見えるゲレンデを見ると、ゴーグルから解放された白い光が眩しくて、まともに目を開けられなかった。 「雪ってきれいだね」  そう言いながら視線を戻すと、彼はヘルメットやゴーグルを着けたままこっちを見て佇んでいた。 「どうしたの? あっ、私、なんか変?」  散々転がったから、どこか変に雪がついてるだろうか。  あ、絶対髪型傾いてる。  私が必死に髪を触っていると、彼は慌てたように手をふった。 「いえっ、全然、おかしくないです。すいません」  そう言って彼は、ヘルメットを脱ぎ、ゴーグルを外した。  頭まで覆っていたマスクも外し、ウエアも脱いで、彼は私の前に腰をおろした。  二時間ほど行動を共にしたが、素顔を見たのはこれが初めてだった。  ココアを啜り、息をつくと、彼はゲレンデを滑降する人をながめているようだった。  ウエアでわからなかったが、やはり彼はまだ線が細い。  マスクで乱れた黒い短髪は、やんちゃそうで可愛らしかった。     
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加