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「私こそごめんね。携帯充電なくなっちゃって。楽しんでた?」
「楽しんでないよ。ゆきがどっかで怪我してたらって気が気じゃなかったよ」
「ごめんね。せっかくきたのに」
友人たちは本気で心配してくれていたようで、私はさらに罪悪感に苛まれた。
「この子に付き添ってもらったの」
彼を友人たちに紹介すると、彼は軽く頭を下げた。
「すいません。ありがとうごさいました。助かりました」
「いえ、大したことじゃないんで、会えてよかったです。それじゃあ僕はこれで」
そう言って、彼はあっさり離れていってしまった。
下りてきてすぐ友人たちに会ってしまったから、ほとんどお別れの挨拶をしてない。
ありがとうも言ってないし、君の名前もまだ聞いてない。
「ちょっと待って!」
私は彼に駆け寄った。
彼は足を止めて、私を待ってくれた。
「あ、あの、今日は本当にありがとう。君がいなかったら無事に帰ってこれなかった」
「いえ、それな大それたことじゃないんで。でも楽しかったです。僕の方こそありがとうございました」
「そんな、私なんて、練習の邪魔したし……」
名前を聞きたいだけなのに、私はどうしても声にすることができなかった。
ただの通りがかりのおばさんが、名前なんて聞いたら、変に思われるかもしれない。
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