リフトに乗った君

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 -10℃で吹きっさらしのリフトの中で、私はポケットで丸まっていた地図を引っぱり出した。  昨日の受付で貰っておいてよかった。  とはいえ、地図が苦手でリフトやゲレンデの名前もわからない私には、到底現在地を推理することはできず、ただただ地図を凝視するだけの行為となった。  終いには風に地図を持っていかれ、何の手立てもなくなってしまった。  リフトの上なのに、遭難した気分になった。 「あの、大丈夫ですか?」  あまりの心細さで、セーフティバーに身を預けていると、急に隣から声がし、私ははっと顔を上げた。  声の感じからおそらく10代半ばであろう彼は、隣に座っていた。  黒いヘルメットに鮮やかな緑に反射するゴーグル、口許もマスクで覆われ、顔は全く見えなかった。  私はどれだけ追い詰められているのか。  一緒に乗り合わせた人がいたことにも、気づいていなかった。 「あっ、大丈夫です」  全然大丈夫ではないが、気恥ずかしくてそうとしか言えなかった。 「お一人ですか?」 「あ、はい。あ、いや、友達と来てるんですけど、はぐれちゃって」  昔から人見知りな上、初めての雪山で遭難中の私に、初対面の人とスマートに話せるスキルは持ち合わせていない。 「携帯とか、ないんですか?」 「それが、急に動かなくなっちゃって」     
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