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「ほかの本がどうなのかは知らんが、これほど集中して読むやつも珍しいんじゃないかね」  回想シーンに登場した亮之介翁がセピア色をした姿を見せる。 「そこらじゅうで、こっちが気配を感じるほどじゃ」 「どうやらそういう読者は少なくなったようですよ。『あの人』は……なんというか憑依読みとでもいうか、本の中の世界に入り込んで、セリフにも地の文に現れない登場人物になったようなつもりで読んでいるらしいです」  須佐が答えた。 「大丈夫か? だいぶ地の文も怪しくなっているような気がするが……。だいたいあの場には須佐さん、あんた以外に『七人』しかいなかったろう」  高山警部が笑った。 「まあ、あの人は一文字一文字拾って読むほうじゃないですから」  須佐が苦笑いで応じる。しかし、一同の間には重苦しい沈黙が流れた。
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