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広々とした座敷に集まった人々の間に流れる空気は、冷たく張りつめていた。
「皆さんにわざわざお集まりいただいたのはほかでもありません」
相変わらず垢ぬけない海老茶色の背広に、襟がよれたワイシャツ姿の須佐が、どういうわけか申し訳なさそうな口調で言った。
「僕はこの事件の真相に気づいたときから、この瞬間を恐れていたような気がします。果たしてすべてを白日のもとに晒すべきなのか」
須佐は一度としてまともに結ばれていたためしのないネクタイを緩めながら、苦しそうに語り始めた。
肌を刺すような冷気は、外に音もなく降り積もる雪のせいだけではない。この屋敷で起きた凄惨な連続殺人事件の謎が、今まさに解き明かされようとしている緊迫感によるものでもある。どこかでごくりと唾をのむような気配がする。
「すべての発端は、この一冊の本にあったのです」
須佐はやたら大きな革製の古い鞄から表紙がボロボロになった一冊の本を取り出した。
「亡き亮之介翁の遺言状に添えられていた暗号はこの本を持つ者にしか解読できないものだったのです」
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