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分家の令嬢楠木香苗が、その澄んだ瞳でひたと須佐を見詰めて言った。その横で家庭教師の小百合が普段より一層白く、蝋のような色をした顔を曇らせて軽く咳をした。小百合は文机の抽斗を開けて労咳の薬包を取り出した。
息をのみ、身じろぎをする気配があるが、誰もそちらに注意を払うことはない。
「須佐くん、もったいぶるのはやめてくれ。一刻も早く小百合さんや香苗さんたちをこれほど苦しめた犯人を逮捕しなきゃならないんだ」
須佐の旧友高遠がいたたまれない様子で膝を立てた。そもそもこの事件に須佐が携わる理由になったのが、小百合の学友でもあるこの高遠だった。
須佐は悲し気な目つきで旧友を見やると、力なく首を振った。
「高遠くん、真実は必ずしも君にとって……」
「須佐さん、どうもよく分からない、あんたはさっきから何を言いにくそうにしているんだね」
高山警部が苛立った様子で割って入る。須佐は高山警部に目をやるとため息をついて口を開いた。
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