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「この事件の悲劇は、英雄色を好むなどと評され、五番目の妻を得るまで浮気に明け暮れて子どもを作らなかったという亮之介翁の逸話の数々から生まれたものでした。この遠州の地で地元の大企業家の懐刀と呼ばれ、最終的にはその会社をも乗っ取った一代の梟雄の晩年は、実は失意と恨みにまみれたものだったのです」  この場に在る8人の視線がしょぼくれた猫背の探偵へと注がれる。 「三年前に亡くなられた五番目の妻五十鈴刀自、亮之介翁の最後の妻であり、こちらにいらっしゃる孫の康孝氏をはじめ亮之介翁の一族を生み育てたあの女性は、実はただ一人として翁との間に子をなしていなかったのです」 「ば、馬鹿な」  高山警部が思わず言葉を漏らした。亮之介翁の一族の栄華を知る、県警の古狸と呼ばれた警部でさえ予想もつかぬ事であった。 「いえ、残念ながら間違いはありません。遺言書の暗号には五十鈴刀自の前の妻、つまり四番目の妻を離縁した理由は、思いがけず早く亮之介翁が男性機能を失ったことが原因だと記されており、五十鈴刀自の残した子供たちはすべてほかの男の種のものだと書かれていたのです」 「嘘だ。そんなことは嘘っぱちだ」  康孝が激高して叫んだ。須佐はびくりと肩を揺らしたが続けた。 「僕は念のため、当時亮之介翁が親しくしていた東京の医師を訪ねてきました。当の医師は亡くなっておられましたが、その息子さんが古いカルテを見せてくれました」 「では、今回の事件は……」  高山警部が言った。 「亡くなった亮之介翁の復讐でもあるのです。自分の家を乗っ取った妻と子どもたちへの……」
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