僕を思い出せなくても思い出したい事を選べる権利

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脳の機能は衰え少しずつ忘れてしまう 僕の事は忘れても、彼女には思い出したい過去がある…例えそこに僕の記憶がなくとも、少しでも思い出させてあげたい…大切な僕も知る思い出 若くして認知症になってしまった僕の彼女 雫(しずく)は僕の大事な彼女だ…彼女が僕の名前を昔のようにニックネームで呼ぶ事はもうない… 恥ずかしいけれど、猫のように気まぐれで自由で自己中な僕は、彼女からは「ニャン太郎♪」と呼ばれていた 今は名前ではなく「先生」と呼ばれる… 彼女にとっての医師でもないのだが、時に医師だと思っていたり、時には僕が教員だと分かっているからか彼女は「先生」と呼ぶ 認知症になった彼女の脳の負荷や老化を抑えるために、医師が教えてくれたアドバイスは…失った記憶を思い出すために、代わりに何かの記憶を消すという事だった…彼女は、それを聞いた時に悩み拒んだ そりゃあそうだ…どれも失いたくない彼女の生きてきた証なのだから それでも悲しい事に、彼女は思い出したくなる衝動にかられ…代わりに何かの記憶を消されてる事すら忘れ気付かなくなってしまった それでも思い出せる瞬間の幸せそうな彼女を僕は見ていたかった 「先生、昨日のドラマの最後ってどんなだったっけ??」大好きな俳優の出る謎解きドラマの最後が思い出せないと言う雫に「あれはさー、最後…」と僕が説明しようとすると不機嫌な顔して雫は耳をふさぐ…元々彼女は、ネタバレを嫌がる人間で自分で見たい自分で知りたいという欲求が強い 「仕方ないな…いつものやるよ?」苦笑いしながら僕は雫の横に専用のノートパソコンを持ってくる 雫の頭に器具をつけ、ノートパソコンの操作をする…マウスを動かし、エンターを押す事に少し躊躇しながらも、どこかで手慣れてしまった自分に恐怖を感じながら… 「自転車の乗り方で良い?」と一応、聞いてみる 雫は不機嫌な顔で「えー、もう自転車も乗れないの?!」とふてくされる 「いいじゃん、元々さ雫は自転車乗るの下手くそなんだしさ、僕の後ろに乗せてあげるから」と笑って見せる 仕方なさそーにしながらも、雫はどこか嬉しそうで 「じゃあ、すごく遠くまで先生に運転手してもらおっと♪」と笑いかえしてくれた
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