1.心掴まれた日

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朧気な幼少期の記憶を辿った時、私の中で色濃く、脳裏に焼き付き、今でも心を震わせるのは母と行った1つのミュージカル。 ________ 本を読むのは好きだった。 本の中にはいつだって、無数の世界がある。 私はいつだってその世界に心踊らされた。 ミュージカルを見に行こう、と母に言われたきっかけは学校からの配布物の中にあった、近くのホールで行われる児童向けのミュージカルのチラシ。 何時もは軽く目を通して捨てられるそれが母の目に止まったのは、何故か。 …………きっと、いつも家の中で本を読み漁る娘を心配してのことだろう。 昔から、人の多い場所は苦手だった。 たくさんの人が集まった時のガヤガヤとした音に、私の心臓は鼓動を早める。 不特定多数の笑い声、誰とも分からない話し声は、いつだって私を不安にさせる。 シンとした部屋で本の世界に浸る方が私には合っていた。 ホールの中の指定された席で開演を待つ。 知らないお話だったけれど、パンフレットのあらすじに目を通し、私はその世界を脳裏で作っていく。 主人公が、最後死んでしまう悲しいお話。 ガヤガヤとした音はまだ響いていた。
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