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座布団の上でリーリアがふんぞり返っているように立っている。本なので表紙が見えている状態なんだけど。
「公爵令嬢リーリアの恋と魔法と大冒険?」
少女小説なのか。
「この私が世界中を旅して、出会った殿方と恋に落ちる話よ」
魔法はどうしたっていうツッコミは置いといて、逆ハーレム物でいいんだろうか。
本文がちょっと気になる。
「えっと、読んでみてもいいかな」
「構わなくってよ」
そっと手に取る。表紙は革でしっかりとした厚さがある。タイトルは金色。表紙をめくると凝った字体のタイトルと目次。紙の色は目に優しい黄色みをおびたもの。
大事なのは始まりの文だよな。どきどきしながら目次をめくる。
アドバンド国のバードン公爵の1人娘、リーリアは刺繍をほうり投げ窓辺から逃げるところだ。
年はさっき言ってたから良しとして、全然見た目が分からないぞ。
「金髪碧眼が鉄板だけど、リーリアの声の感じからして銀の髪に水色の瞳」
ぱーと辺りが水色の光にあふれ
「すごい魔力をお持ちですわ、如月様」
思い描いたとおりのリーリアが目の前に居る。
すごいかも俺。とリアル女子にほめられたことがない男子が思っても罰は当たらないと思う。
調子に乗った俺は
「でバードン公爵、リーリアの父さんはナイスミドル、お母さんは綺麗で若くて、リーリアは絶対お母さん似だね」
きっと領土は馬の産地で国王に献上しているんだろう。
妄想の世界に浸っていると
「この魔力なら帰れそうです」
鈴の音のようなリーリアの声と共に凄まじい風が吹く。
渦巻いた風は、湯飲みをふっ飛ばし俺にクリーンヒットした。
死因が湯のみって……
薄れゆく意識の中そっとリーリアの手が触れた気がした。
穏やかな気分で目を閉じる。
グッバイ 現世
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