ぱんどらの本

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「うふふ、くぐいせーんぱーい、痛いことはしませんから、見せてください」  久々井先輩の部屋に二人っきり……私は、メガネの向こうの先輩の目をじっと見つめながら、わざとゆっくりとにじり寄る。 「だから、これはダメだって……ていうか、痛いことって何?今サラッと言ったよね?」  先輩は少し厚みのある箱を胸に抱きながら、ベッドの上を正座しながらもぞもぞと下がっていく。  私は先輩を見つめたまま、頭の後ろに手をやると、ポニーテールを結んでいるリボンをするりとほどく。白と水色のチェックのリボンは一本のロープに変身する。 「いい子ですから、じっとしてくださいね~痛くも怖くもありませんよ~ちょっと手首が動かなくなるだけですよ~」 「ちょっと、ひかりさん?何をする気?それに…綺麗なお目目が爛々としてらっしゃるんですけど…」 「なんか楽しいんですよねぇ」  すると、久々井先輩は胸に抱えていた箱を私の胸元に突き出した。 「わかったから! これ好きにしていいから!」 「えー……もうお手上げですか? 何だかつまんないです」  私は少しがっかりしたまま、先輩がなかなか渡そうとしなかった箱を受け取る。厚紙でできた薄手の箱だ。私は丁寧にその箱を開け、濃紺の装丁の本を取り出す。 「おおー! これが先輩が中学の時の卒業アルバムですか。さてさて、先輩は何組でしたか?」 「はぁ……三年一組だよ」 「久々井先輩発見!わあ、坊主頭だ」 「野球部だったんだよ……坊主頭、見られたくなかった……」  先輩はベッドの上であぐらをかいて、がっくりうなだれている。 「この頃は演劇部じゃなかったんですよね。かわいくていいじゃないですか……で、どの子が好きだったんですか?」 「……そこには載ってないよ」 「えー!つまんないです」  ばふっと音をたててアルバムを閉じる私。 「いない、とは言いませんでしたよね……別の学校の子ですか?それとも年上の人?年下の子?」  濃紺のアルバムを厚紙の箱に丁寧にしまいながら、私は矢継ぎ早に聞く。そして先輩をじっと見つめる。 「うわわ……またその目……一つ年上の人だよ」 「学校が離れちゃっても好きだったんですね……私妬いちゃいます」 「……思いは届かなかったし、力になれなかった」  先輩は私に背を向け、ベッドの上から窓の外を見つめていた。
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