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何だかそれ以上突っ込んで聞けない雰囲気を感じ、私は話題を変えることにした。
「さあ、問題の高校の卒業アルバムですよ。まず、二冊ありますね……これは、その、例の、留年しちゃったからですか?」
「ああ、そうだよ。でも今度はこっちの一冊は絶対に開けない。俺は載ってないし、絶対に誰にも開けさせない」
その卒業アルバムは、木の箱ごと、ガムテープでぐるぐる巻きにされているのだった。
そしていつもとは全く違う、先輩の威圧感ある低い声に私は思わず体が震える。
「そっちなら構わない。俺も普通に写ってるし、演劇部としても載ってるよ」
今度はいつもの優しい先輩の声に戻っていた。でも、さっきの声が耳から離れない。
「はい……」
「……なあ、ひかり? ……君は自分の卒業アルバムが開けるかい?」
突然の問いに、私は言葉を失う。一瞬にして甦る記憶たち。でも先輩の問いに答えるため、声を振り絞る。
「今は…無理です……将来……時間が経っても……無理かもしれません」
私は去年……高校三年の年、幼馴染みの親友を失っていた。
親友は私と同じページにいるけれど、私たちとは離れた片隅にいるはずだ。
あの頃私は無力でなにもしてやれず、そして彼女は天国へと旅立った。私にはなにもできなかったのはわかっているけれど、得体の知れない罪悪感は未だに心の片隅に残っている。
だから開くことは出来ない、あの木箱、あの革の表紙……
まるでパンドラの箱だな、と思った。
「そうだろうと思う。」
「先輩も同じなんですね」
「まあ、そういうことだ」
先輩は遠く遠く空の彼方を見据えたまま動かない。
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