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奴は何故かしら、陰気なモノをいつも感じさせていた。髪はぼうぼうと長く肩までたらしていて、目はギョロリと鋭く、口は少しゆがみ、言葉には障害があるようで、絞り出すような声は聴きとりにくかった。 講義中にはよく教授に喰らいついて、講義を中断させたり、講義時間を延長させていた。奴の言葉は聞き取りにくく何を言わんとしているのか理解するのには、相当の努力が必要だと思われた。 奴が挙手し、発言をしようとすると、教授は当惑し、怪訝な表情をするが、彼はそれを無視して、怒鳴るようにわめくのだ。僕にはわざと彼が嫌がらせをしてるようにしか思えなかった。 ふと奴には友達がいるのだろうかと、僕は思った。そういえば彼はいつも一人でいる。キャンパスでいつ見てもほかの学生と話しているのを見たことがなかった。 ぼくは新聞の縮小版が並んだ棚の前に立っていた。なにげなく、一冊を抜き取ると。冷たく重い。真ん中あたりが微妙にふくらんでいる。ぼくは床に座り込み、パラパラとめくってみた。昭和四十五年だから、小学生の時だ。 「ああ、万博の年だな」と思いながらめくっていると。突然、僕はぞっとした。ミツバチが潰されていた。体液を紙面に染み込ませ、頭部もひしゃげて干からびている、蚊などの小さな虫がはさまれ干からびていたり、紙魚が粉のよう本のノドについて死んでいることがありはするが、大きな虫が挟まれているのはグロテスクですらある。     
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