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蜂
地方都市の大学のかび臭い図書館の中は、息が白く見えるほど寒かった。終戦直後に建てられた木造のこの建物は、窓は高くにあり、天井のすすけた汚れをあらわにしていた。狭い書架は十列ぐらいあるが傷んでいて、所々棚が斜めで今にも並べられた書物が崩落しそうになっている。床はギシギシと鳴り微妙に歩きづらく感じた。。
足がガタガタと震え、掌をぎゅっと握りしめ。身を縮め、歯をくいしばり、歴史のレポートを書くために、ある博士の論文を漁していた。
カードの箱で確かめてはみたが、ここにはないようだった。午前中のこの時間を無にしてしまったようだ。
雨音が激しく聞こえる。アパートを出る時には雨は降っていなかったので、傘を持っていないことに気付いた。どうせすぐに止むだろうと思い、軽くて面白い小説などを閲覧しようと思ったが、法学部と商学部だけのこの図書館にはないことに気付いた。
専門書の中でうんざりしていた時棚の向こうにも人がいるのに気付いた。本の間から見えた顔で、奴だなと分かった。そして急に嫌な気持ちになった。
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