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その時。不意に異臭が鼻を突いた。
見ると、壁についた右手の指先の皮膚が白く変色している。
A氏はぎょっとした。何か触ったのだろうか。
指をこすりあわせるとぬるぬるとした。おそるおそる臭いを嗅いでみると、酸っぱいような甘たるいような、有機的な臭いがつんと眉間を刺激した。
爪を立ててこそげ取ろうとすると、皮膚は容易にずるりと剥けて、赤黒く柔らかそうな肉が見えた。
A氏は指を見つめた。自分はこんなぬるぬるとして臭いものだったのかと酷く鬱々として泣きたくなった。
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