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不安が足元からぞろぞろと這いあがってくるようだった。
もう家に帰りたい。ここから出たい。請うように願いながら壁に手をつき――ふと我に返った。
自分は、どんな家に住んでいるのだったか。焦って家族の顔を頭に浮かべようとした。何も出てこない。
A氏は唾を呑み込む。
そもそも自分は社会人なのか。学生なのか。
歳は。名前は――。
何も思い出せない。
あまりのことに、A氏はくらくらと酩酊にも似た目眩を覚えた。背筋に冷たい汗が一筋伝っていった。
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