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鬱々としている間に指先の白い変色はどんどん広がっていった。それとともに指はふやけたように膨れ上がり、融けて五本とも一緒くたになってしまった。手のひら、そして手の甲の膚もぷっくりと膨れ、今にも弾けそうだった。
そのまろやかな白さは、昔、縁日で買ってもらった飴細工を思い起こさせた。
なつかしさと共に、胸に安堵が拡がった。ひとつでも覚えているものがあったのだ。
それにしても、おれはいつの間に大人になったのだろう。どこもかしこも硬く太く節くれだって、肌の色だって汚ならしくくすんでいる。
だがこの右手だけは、まろく軟らかで、輝くばかりに白い。
A氏は膨れた右手に見とれた。変色は手から腕に、じわじわと網目状に広がっていった。その薄い皮膜のような皮膚の下に、青紫の血管が透けて見えている。
皮膚の上下を走る線と色の交差が奇妙な立体感を持って眼前に差し迫ってくるようだった。
世界が揺らぐような感覚に、A氏の呼吸は速くなる。
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