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「そうでしたか、失礼致しました。私、当ホテルのマネージャー、白井と申します。ミスターウィザースプーンをお待ちとか。こちら、まだ清掃が終わっておりませんので、ラウンジへご案内したいのですが?」
白井マネージャーの丁重な英語に気分を良くしたのか、彼女は私をチラリと見て鼻で笑うと「お願いするわ」とスカートを翻した。
彼女をエレベーターに乗り込むのを、頭を下げて見送る。
「……」
そっか、婚約者、いるんだ。
よく考えれば当然だ。寧ろ、いない方がおかしいって分かってたはずなのに。
心の何処かで期待してんだろう、胸をチクチクと刺すような痛みを感じる。
「バカ、だなぁ……」
子供の頃は、本気で由人さんと結婚するの、なんて祖父母にも話してたけど、あのペンションを出た頃には、そんなことは無理だって分かってたはずなのに。
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