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市はIDチェックのようなもののかと思ったが大丈夫だった。
女が第一階層と呼んだ場所から比較的安全な道順をたどってきたのだ。
逆にそこにいたのは、俺みたいな比較的普通の格好をした人間と、一目でみて上質な服装をしている人間だった。
けれど一人だけ、まるでコスプレの様な格好をしている人間がいた。
その人間の周りだけ不自然に人がいないので、この場所でも珍しい事なのだろう。
ショーケースに入っているのは明らかな死体だった。
精巧に作られている人形とは思えなかった。
先ほど見た男のようにクマのあるもの、脱げた上半身にY字の傷跡があり縫合されているもの、色々なものがショーケースに並んでいる異様な光景だった。
ただ、すべての死体の瞼は閉じていて目が合わない事だけが救いだ。
男女比はおおよそ7:3で女の方が少ない。
ただ、時々腕だけ全く肌の色が違う死体などもあるので微妙なところだ。
兄は死んだ。確かに死んで葬儀を出したのだ。
それが別人だったのかもしれないという気持ちでここへ来たが、それとはもっと違う可能性に気が付きそうになる。
もしかして、という気持ちになる。
その気持ちを打ち消したくて一歩後ろに後ずさった。
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