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しかし、ビル群の入り口で起きたことが脳裏をよぎる。
ここはマフィアが支配している世界だ。もし、揉め事を起こせば先ほどの様なことになるのは明白だった。しかも、今度は俺がやられる側だろう。
「ソレ、中古だからお買い得ですよ。」
エプロンをつけた店員の姿は自分の住んでいる場所の一般的な店舗とそれほど変わらなく見える。
けれど兄の遺体を当たり前の様に、中古商品として扱う姿はやはりここが無法地帯なのだと見せ付けている様で吐き気がした。
兄はここにいた。
けれどつれて帰ることも、どうすることもできない。
自分の無力感を感じながら兄の亡骸を見つめる。
交渉でどうにかなる話ではないし、警察を呼んでも意味のない場所だし、力でどうにかなる相手ではない。
そんなことはここへ来る前からわかっていた事だった。けれど事実として受け入れられていなかっただけだ。
でも今は、もうちゃんと分かっている。
兄を取り戻すためには、金か力かその両方かが必要なのだ。
今の自分にはそのどちらもない。
それをどうにかするにはここに突っ立っていたって意味が無い。
俺は急いでその島を後にした。
次にこの島を訪れる時は兄を取り戻す時だ。そう心に誓った。
了
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