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トキヤ
ガイドはその場所に着く10キロほど前で根を上げてしまった。
徐々に治安が悪くなってきているのは、手入れのされていないビルの窓、ごちゃごちゃに入り乱れる多国籍の看板で分かる。
内部まで案内してくれる案内人の手配はできなかった。
薬の売人だか、それとも人身売買で女を連れて行くためだか、そんなもののための人脈はあいにくもってはいない。
だから、遠目からマフィア達の根城、無法地帯を眺める個人ツアーをしている現地住人に頼んで近くまでつれてきてもらっているのだ。
「金品は見せちゃ駄目ですよ。いざというときの取引材料にするんです。
といってもそれが通じるのは小物相手でしょうけど。
見せびらかしていると、もっと小物がイノチ奪って去っていきますからね!」
真剣な面持ちでガイドが言う。
責任問題になったらたまらないのだろうけれど、ここから先は“自己責任”の世界だ。
まるで砦のようにそびえ立つ、無秩序なビルを見据えて大きく深呼吸をした。
1年半前ほど前に事故で亡くなったと聞いた兄がこの中にいるのかも知れないと思うとどうしようも無く、胸がざわめいた。
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