始まりの夏

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1回目の休憩時間になると決まって食堂前の自販機で冷たいお茶を買うのがルーティンになっていた。 いつもならお調子者の野球部員達がヘロヘロになっている姿を窓から眺めながら部室に帰るのだが、雨が強く降っている今日はグラウンドが使えないようだ。 『さっきの、かなり良かったよ!』 野球部員を見ることができずショックな気持ちを抑えているところに声をかけてきたのは野上さんだ。演奏中以外は明るく自然体なので割と接しやすい。 『ありがとう。いっぱいいっぱいだけどなんとか!』 『始めて3ヶ月でバリバリ演奏されてもこっちが困っちゃうから大丈夫だよ(笑)』 冗談まじりの会話を学校で出来ることがとても嬉しかったりする。 普段、教室で話す機会が少ないのは同じクラスに軽音部がいないことが大きな要因だろう。 「ここ」では本当の自分を出してもいいと思えるのが嬉しかった。 『小野寺は久野に誘われて軽音部に入ったんだよね?』 『うん。最初は成り行きで。でも、音楽を聞くことはずっと好きだったから-する側-になってもとても楽しいよ。』 『楽しい。かぁ...。』 野上さんが小さな声で呟いたが、それは微かに耳に届いた。 『野上さんは楽しくないの?』     
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