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始まりの夏
ーーそうなりたいと決意したのは高校2年の時だったーー
…これは、ごく普通の少年がこの世界に残した証の話。
7月10日(火)
入学から約3ヶ月。高校生活は正直楽しいと感じるものではなかった。
グループという名の社会がすでに形成されており、ヒエラルキーの下層に配属された
自分にとっては当然のことだろう。
それでも学校へ行っていたのは部活動のためだからだ。
小学校からの友人である久野航大が誘ってくれた軽音部は教室より心地の良い場所だ。
かといって、テレビから流れてくる綺麗な演奏を真似できるわけでもなく、
計算されたカメラワークによって格好良さを増したようなギターソロを弾けるわけでもない。
楽器を触り始めてまだ3ヶ月しか経っていないのだから当然とも言えるのだが…。
『4弦、チューニングずれてるよ。』
キーボードの野上緑が言い放った言葉で我に帰った。
「言い放った」というのは可愛い顔をしているが、
言いたいことはズバっと発言するその性格からかそう感じたのだろう。
普段は優しいのだが、音楽のことになると目付きが変わったように真剣になり、
素人にも簡単に分かるほど綺麗な演奏をする。
『ごめん、すぐ直す。』
水色に塗装されたギターを持ちながら、ヘッドに着いたチューナーにすかさず手を当てる。
練習している曲は、誰もが聞いたことのある有名な曲だ。有名で売れている曲ほど実は簡単に構成されていることも少なくないらしく、実際に初心者の自分でもある程度までは形にすることができていた。
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