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 体育館。汗のにおい、キュキュッとなる靴の音、一面に水が張られたような美しい輝きを放つニスが塗られた床、いつしか挟まったまま置き去りにされている天井のバレーボール、放課後の体育館はとても特別な空間に思える。体育館は好きだ。  今日は、サチの言うとおり、男子バスケ部と女子バスケ部の合同練習だった。 わが校はいわゆる強豪校で、特に女子バスケ部が強い。普段から男子と練習させることで、体格や力の差に慣れておくようにするのが合同練習の主な目的のようだった。  男子も負けてられないという気持ちがあるのだろう、年ごろの男子達は女子に対して幾分の遠慮が見られるが、実際練習が始まれば、そんなことはお構いなく激しい試合になるとのことだった。 「ほら、ミツキ! あの人が橋本先輩だよ」  サチがいつもより興奮気味で、男子の集団を指さし、そう言った。 橋本先輩はひと目で、その人だと分かった。  ひときわ目立つ大きなカラダ。決して堀が深いという訳ではないけど、目鼻立ちのはっきりしているその顔は、犬っぽい可愛いらしさと大人っぽさを兼ね備えている。全身は真っ黒に日焼けしており、日ごろの練習の成果を伺わせた。一度見たら忘れられない印象の顔だった。  胸の奥の方が、「ドクン」と音立てて、跳ね上がる感覚があった。 ――まずい、今、完全に浮き足立っている。しかし、これをサチには気づかれてはいけない。 「かっこいいよね、橋本先輩。あー目の保養になるわー」 「う、うん、そうだね」 「ミツキもカッコいいって思ったでしょ? まぁ、ミツキは興味ないか」  今、自分はどんな顔をしているのだろう。この、静かだけれど、確かに湧き上がる想いを、サチに悟られないように、言葉を慎重に紡ぎ出す。 「カッコイイとは思う、よ。興味はない、けどね。ご利益はありそう」 ――しまった。早々に、墓穴を掘ってしまった。 「何? ご利益って? 橋本先輩のこと、仏様か何かかと思ってるの?」 「拝むと言い出したのはサチじゃん」と言いたくなったけど、これ以上詮索されても困るので、「そうかもね」と軽く流しておく。 「まぁ、そもそもミツキに、橋本先輩の良さを語ったところで意味ないか。アンタ、男に興味ないもんね」  何か、ものすごく毒を吐かれているような気もするが、これ以上ボロを出さないように、「そだね」とまた軽く流す。
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