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今はそんなことより、橋本先輩だった。その圧倒的な存在に、目がくっついて離せないでいた。
橋本先輩。三年生で、男子バスケ部のエース的存在。
どんな人なんだろう、何を好きで、誰が好きで、未来にどんな夢を見ているんだろう。
知りたい。出来れば、その世界を共有したい。
他人から見れば、「それは、一目ぼれだよ」と言われるのだろうか。
心臓の音が耳の奥でこだまする。そして、喉仏の少し下側で、更に奥の方がじんじんと熱くなる。子どものころから、恋をする時はいつもこの辺りが痛痒くなる。
――てことは、やっぱりこれは。
「ミツキ……あんた」
隣に立っていたサチの声で我に返る。サチはこちらをじっと見つめていた。
「な、なに?」思わず、目線を外す。
「まさかとは思うけど……」
今の一瞬で勘付かれた? けれど、上手く誤魔化す言葉が出てこない。
サチが何かを言おうとしたその時、体育館中に響き渡る大きな声が聞こえた。
「うぉーーーーい!」
二人同時に、その声の方向へ反射的に首をぐるんと向ける。
橋本先輩だ。その隣には、男の人がもう一人、一緒に歩いている。
二人とも怯えた小動物のようにワタワタする。まるで、ライオンに食べられる兎と言ったところだ。
「一年生? 今日は練習していく? それとも、見学だけ?」
橋本先輩は人懐っこい笑みを浮かべながら、嬉しそうに訪ねてきた。
「はい! 二人とも一年です。き、今日は見学に来させていただきました! 上京ミツキです。よろしくお願いします」一瞬詰まったけど、きちんと答えられたと思う。
「中村サチと言います! よろしくお願いします!」
サチも先ほどまでの浮ついた感じではなく、上手く切り替えられている。
「俺は橋本。こっちは、キャプテンの加藤で二年生な。新入生の入部関連は加藤に任せてるんだけど、弟がいるせいか、ついつい世話したくなっちゃうんだよな。わははっ」
あ、そんな風に笑うんだ。ビッグスマイルって言うのかな。破壊力がありすぎる。こんなの誰でも好きになってしまう。
好きなところ、一つ、見つけた。
それから、弟さんがいるんだ。きっと、同じようにイケメンに違いない。橋本先輩と似た笑い方をするのかな。そんな妄想を駆け巡らせる。
「二人とも経験者?」
加藤先輩が尋ねてくる。加藤先輩はキャプテンらしく、しっかりしている感が全身から漂っている。
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