同じ目線で

11/15
前へ
/15ページ
次へ
 言いながら、ルカはマリーに手を差し出したが、そこに彼女の手は重ならなかった。  「……行かないわ」 「そんな、どうして? ようやく神様から許可がもらえて、僕が君にしてあげられることができたのに」  そう言うと、彼女は泣きそうなまま微笑んだ。  「要らないのよ、ルカ。覚める夢ならいらないの。最初からこの現実に戻ってくるとわかっているなら、私は夢を見られないわ」  マリーは言った。  「夜眠るとき、私はいつも夢を見ませんようにと祈って眠るの。それでも、何度も夢を見るわ。夢の中ではお父さんにもお母さんにも会える。でも、夢は必ず覚めるのよ。目覚めた時にそばに両親が居ない寂しさを、何度味わったかわからない。……私があの物語が一番好きなのは、あの本を初めて読んでもらった時のわくわく感と、両隣に居た両親の温もりを思い出すからなの。空を飛んだり、海に潜ったりできなくても良い。私はあの優しい時を思い出して浸っているだけで、十分なの」  そう言うと、ついにマリーの瞳からは一粒、涙が零れ落ちた。  「……もう帰って、ルカ。せっかくのプレゼントを、受け取れなくてごめんなさい」  マリーはそう言うと窓を閉め、カーテンも閉じてしまった。  ルカはただ、そこで呆然とするしかなかった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加