同じ目線で

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 ルカが引きこもっている間に、地上は既に春になっていた。小さな花や柔らかな若葉が、優しく世界を彩っている。  ルカは真っ直ぐに教会に向かい、いつものベンチの正面に降り立った。  ベンチにはマリーが座り、いつもと同じようにあの本を開いている。今日はルカは、翼を隠すことはしなかった。  「やあ、マリー」 「……ルカ、久しぶりね」  マリーは柔らかく微笑んでくれた。  「また会えて安心した。待っている間に、また季節が変わってしまったから……怒って、もう来てくれないかもしれないと思っていたわ」 「怒ってないよ。僕の方こそ、傷つけてしまってごめんね」 「……もう気にしてないわ。私の方こそ、言葉が足りなかった。反省しているわ」  そこで、少しの沈黙が下りた。  「……それで、今日はまた別の提案があるんだ」 「良いわ。聞かせて」  ようやくルカが口を開くと、マリーは微笑んで自分の隣を指差した。  ルカはベンチに腰掛けると、マリーの目を見て言った。  「僕はずっと、君を見守ってきた。離れたところから、君の様子を窺ってきた。……でも、それはもう終わりにしようと思うんだ」 「……もう、ここには来ないってこと?」  マリーは不安げに聞いてきた。けれども、ルカは首を横に振った。  「違うんだ。……これからは、ここでずっと、君と過ごしていきたいんだ。君がその本を読む間、隣で静かに寄り添う存在になりたい。君がその世界から帰って来た時に、独りぼっちだって思わないように。君と同じ目線で、同じことを感じられるように」 「それって……人間になるってこと? あなたが?」 「そう。……もし、君もそれを望んでくれるなら、だけど」  すると、見る見るうちにマリーの目には涙が滲んだ。けれどもそれは、前回の涙よりずっと温かい涙だった。  その涙の最初の一粒が零れ落ちると同時に、ルカの翼は淡く金色に輝き、風に流れてサラサラと崩れて消えていった。一度だけ人の望みをかなえてくれる、分け与えられた神様の力が、正しく働いてルカから天使の証を取り除いたのだった。  ルカとマリーは顔を見合わせて笑った。  消えていく最後の光の粒達が、二人の未来を照らすかのように風に舞い上がって、二人を包んで消えていった。  
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