同じ目線で

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 秋の陽射しの暖かい日。昼過ぎにいつもの場所へ、一人の少年が足を運ぶ。  教会の敷地内にある、大きな木の下のベンチに、少女が一人腰掛けて、本を開いていた。  少年は真っ直ぐにベンチに向かった。  「こんにちは、マリー」  少年がそう声を掛けると、少女は本から視線を上げた。  「こんにちは、ルカ」  マリーはそう言って微笑んだ。それを確認してから、ルカは彼女の隣に座った。  「今日は暖かくて過ごしやすいね」 「本当に。上着無しで外に出られるくらいだもの」  ルカの適当な会話に、マリーが相槌を打つ。いつもと同じ昼過ぎの光景だった。  「でも、もうすぐ冬が来るのね。朝晩は冷え込むことも多くなってきたし……」 「そうだね。ちゃんと暖かくして寝るんだよ。風邪を引かないように」 「ふふ、ルカもね」  優しさに優しさを返してくれる、マリーは良い子だった。  「そうだ」  そこで、マリーは持っていた本を開いて、ルカに手渡した。  「今日も続きを読むでしょう?」 「ああ。少し借りても良いかい?」 「もちろん」  ルカは本を受け取って礼を言うと、そのままページに目を落とし、昨日の続きから文章を追い始めた。  しばらくすると、マリーはルカの肩を叩く。  「ごめんなさい、ルカ。そろそろ時間なの」 「そっか。ごめん、気が付かなかった」  ルカはそう言いながら、ページを開いたままの本をマリーに返した。  マリーは少しの間、開かれたページに視線を落としてから、本を閉じる。残されたページ数はあと僅かだった。  ルカがベンチから立ち上がると、マリーも立ち上がった。  「もうすぐ、読み終わるのね……。明日も、続きを読みに来る?」 「そうだね。雨が降らなかったら、明日も来るよ」 「わかった。じゃあ……またね」  そう言うと、マリーは教会の方へ走って行った。  ルカはその後ろ姿を見送ってから、隠していた翼を広げて空に飛び去った。
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