同じ目線で

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 天使の仕事は様々だが、ルカが担っているのは担当する地区の守護だ。  大まかに言うと、仕事の内容は二つに分けられる。  一つ目は、死んだ人間を天国まで案内すること。道に迷って現世に留まることがないように、入り口まで天使が導くことになっている。  二つ目は、悪魔が人に関わって悪事を働いていないか見張ることだ。  悪魔は時に恐ろしい事件を起こす。ルカの担当する町でも、十五年前、二人の人間の命が奪われた。マリーの両親だ。  ルカはあの夜現場にいて、事件の元凶となった悪魔を手に掛けた。けれども、ルカにできるのはそこまでだった。  天使は人の生き死にに直接関わることができない。悪魔を取り除いたら、ルカにはそれ以上何もできなかった。  結局、両親はマリー一人を外に逃がして死んでしまった。  ルカは両親のことを当時一緒に現場にいた友人のロンに任せ、自分はマリーのその後を見守った。  マリーは隣町にある、小さな教会に預けられることになった。  事件のショックのためか、マリーはその夜のことを何も覚えていなかったが、突然両親が姿を消し、知らない場所で知らない人たちに囲まれて、心細そうに過ごしていた。  マリーが自宅から持ち出せたのは、自分と一緒に毛布に包まれていた一冊の本だけだった。それは、いつも眠る前に両親が読んでくれた物語の短編集だった。  マリーは片時も本を手放さずに、いつも抱き締めて過ごしていた。  そんなマリーの様子を、ルカは離れた場所から見守っていた。マリーが成長して大きくなっても、時間を見付けては様子を見に行った。  もう少し自分が辿り着くのが早ければ、あるいは悪魔の存在に、もっと早く気付けていたら、あの子は今でも両親と笑って過ごしていたかもしれない、……いくら悔やんでも、悔やみきれなかった。  時間と共に、少しずつマリーが生活に慣れ、表情が出てきたときには、ルカは心底安心した。  周りの人々にも恵まれ、マリーは優しい子に育った。今は協会の手伝いをしながら暮らしている。  それでも、マリーは今でも、どこに行くにもカバンの中にあの本を持ち歩いていて、ふと時間が空くと取り出して表紙を撫でたり、ページを開いて文字を追うこともあった。
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