同じ目線で

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 彼女はそう言うと、持っていたカバンからあの本を取り出した。  すっかりと色あせた緑色のカバーのそれは、ルカがずっと見てきた彼女の本だった。  「ハッピーエンドばかりの短編集なんです。大切なものなのでお貸しすることは出来ないんですが、良かったら少し読んでみますか?」 「え……良いんですか?」  その日から、ルカとマリーの昼過ぎの交流が始まった。  マリーは晴れた日に外に本を読みに出てくるので、ルカもそれに合わせて教会へ行った。  どうしても見回りの担当で行けないような日は、事前に明日は来られないのだとマリーに伝えて、見回りの途中に空から彼女の様子を眺めた。  少年の姿をしているルカは、年が近く見えることもあって、マリーとはすぐに打ち解けた。  ルカは少しずつ、マリーの本を読み進めていった。  その本にはいろいろな物語が詰まっていた。そしてマリーの言うとおり、結末は全てハッピーエンドだった。  マリーはもう本の内容が殆ど頭に入っていて、しおりを挟まずとも内容を少し読めば、次もまた同じページを開ける。マリーはいつも本を開いた状態でルカにそれを渡し、ルカも同様にして本をマリーに返していた。     
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