ドンと鳴る太鼓

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ドンと鳴る太鼓

 ドン! と胸が震えるほど大きな音が鳴った。  ドンドン! と歌うように鳴る音を全身で聞いた。それは慰めてくれているようでもあり、進め進めと励まされている気もする。どこから鳴るのか分からないその音を聞きながら僕は、枯れてしまった藍色の人間の花を見つめる。  種から生まれる僕たちにとってそれは生家であり、父や母だったのかもしれないと今さら思う。枯れてみなければ分からなかった。ずっと咲いているものだとばかり思っていたから、晴れた空が恨めしいくらいには悲しみに溺れている。 「長く咲いておったなぁ」 「おじさん。もっと見ていたらよかった」 「そうだなぁ。後悔しても花は咲かん。自分で咲かせんければな」 「僕が拾ってきた種、ここで育ててもいい?」 「あぁ、好きにしろ」  おじさんは数日待つように言って畑の中へ紛れていく。  この自分が育った同じ場所で僕は、あのゴリラかもしれない人間の種を育ててみようと思う。濃い紫色でつるつるの種からゴリラが出てきたとしても、きっと花は美しいだろう。  そして教えてあげるのだ。この花はすぐに枯れると。  上空を茶色い鳥魔獣が飛んでいる。鳥という言葉が心許ない大きさだ。  リンリンと音が鳴る。最近気づいたのだけれど、この音はリンの声だ。その証拠にリンが凄い速さで飛んできた。腕に白いもさもさを抱えている。 「リン……その白いの何?」 地面に降ろされた白いもさもさはリンと同じくらいの大きさの精霊だ。長い白髪に茶色い肌の精霊には羽がない。リンは生まれた精霊に羽が無くて慌てているのだろう。 「この子は飛べない精霊なんだよ。だから大丈夫」  ドン! ドン! と応じるように音が鳴る。 「この音はお前の声なの?」  ドン! 「じゃあ、ドンだね」  リンとドンは手を繋いではしゃぐ。空にはまた別の魔獣がやって来て、茶色いのと交差する。魔獣とも意思の疎通は出来るけれど、人間と魔獣の間にはなにか距離がある。人間は魔獣に近づこうとも知ろうともしないし、魔獣は人間を眺めるだけ。
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