リンと鳴る鈴

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リンと鳴る鈴

 そろそろ産まれてみようと思った。蕾の内側の芳醇な香りと柔らかな花弁の寝床に包まれ言葉の海に浸っているのもいいけれど、どうしてもご飯の甘さが知りたくなったのだ。こればっかりはどうしても産まれてみるしかない。  内側から窄まりをトントンと叩くと、ぱぁっと開いた。初めての風に揺れる雄蕊が花粉を散らし、僕はまだ判然としない視界で初めての土に立つ。 「おぉ、産まれたか! ちょっと待っとれよ!」  今の、じょうろを放り投げて走って行ったのが畑のおじさんだ。だいたいの事は黙って聞いていたから知っている。ここは人間畑で、僕は十六歳の生後まだ数秒だ。あのじょうろの中には本を煮詰めて言葉を溶かし込んだ水が入っているのだ。あれを飲んで人間の花は育つ。それが十六年間の僕の栄養であり、暇つぶしだった。 段々と見えてきた視界にはたくさんの大きな花が蕾のまま並んでいるのが映るので、どうやら最近に産まれたのは僕だけらしい。それにしても開放的だ。足の裏で感じる土は陽射しを含んで温かい。畑のおじさんが戻ってきた。 「これを着な」 「……あ、りが、と」     
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